SOLO — web magazine
HIKE & RAMEN ROUTINE
FEATURE No.019
JA / EN
P.01 / P.12
COVER
冬枯れの登山道をゆく

FEATURE

Hike &
Ramen.

Photo & Text — Naoya Toyota Mt.Takao 599m → Mt.Ōyama 1,252m Shin Ramyun, Eggs & Friends
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関東の手頃な低山に登り、ラーメンを食べて、下りてくる。文章にしてしまうと、それだけである。

山頂を極めるわけでもない。何日もかけて縦走するわけでもない。朝早く東京を出て、関東の山に登り、お湯を沸かしてラーメンを食べる。昼過ぎには街へ戻り、何事もなかったかのように電車に乗って帰る。

それでも、休日の過ごし方としてはずいぶん豊かだと思う。そんな手軽な山登りを、僕は提案したい。

The Routine — ある休日の行程

  • AM / 早朝東京を出る電車で登山口へ
  • AM登る講釈を聞きながら歩く
  • 山頂ラーメン辛ラーメン+ネギ
  • PM下山昼過ぎには街へ
  • 夕方一杯吉祥寺「いせや」で焼き鳥

Cast — 登場人物

J氏

J氏Linguist

イギリスかぶれの言語学者。山道でも口数が減ることなく、歴史文化やらなんやらの講釈を垂れながら歩く。辛ラーメンの選者。
K氏

K氏AI Engineer

「いや、登山いいなあ」を連呼するAIエンジニア。第二弾・大山から参戦。取ってつけたような感嘆が、なぜか憎めない。
01

CHAPTER 01

山から
離れていた

Away from the Mountains

僕は高校と大学で登山部に所属していた。80Lの大きなザックを背負い、日本アルプスの山々を歩いた。当時の僕にとって、登山とはそれなりの準備と体力を必要とする、大がかりなものだった。

01 — 01山へ戻りたい僕と、
山へ入ってみたい友人たち

社会人になると、山は急に遠くなった。仕事をしながら天気と予定を合わせ、早朝に起き、装備を準備して出かける。その一つひとつが、以前よりも面倒に感じられるようになった。山へ行かない期間が長くなるほど体力にも自信がなくなり、さらに足が遠のく。

一方で、社会人になった友人たちは、なぜか次々とアウトドアに目覚めていった。キャンプを始める人がいる。トレッキングシューズを買う人がいる。休日になると、東京から近い山へ出かけている人もいる。

山へ戻りたい僕と、これから山へ入ってみたい友人たち。両者の利害が一致したところで、この小さな企画は始まった。目的は単純である。関東の手頃な山に登り、景色のよい場所でラーメンを食べる。登山は、そのくらいの理由で始めてもよいと思う。

02

CHAPTER 02 — MT.TAKAO 599M

第一弾
高尾山

Takao — Good Old 599m

最初の山として選んだのは、高尾山だった。登山をしない人でも知っている、あまりにも定番の山である。北アルプスを歩いていた頃の僕なら、わざわざ「登山」と呼ぶことに抵抗すらあったかもしれない。

Mt.Takao — Tenguされど高尾山。街を離れて木々の間に入れば、足元には土があり、頭上には空がある。街中を歩くのとは明らかに違う時間が流れている。高尾山は十分に山である。
高尾山の天狗像

02 — 01山頂の辛ラーメンと、
散財を宣言する男

高尾山には、友人のJと二人で登った。約80分の道のり、こちらが息を整えている横で、Jは歴史文化やらなんやらを垂れている。

山頂に着いたら、今回の主目的であるラーメンを作る。銘柄は辛ラーメン。もちろんJのチョイスだ。コッヘルに水を張り、EPIのシングルバーナーで湯を沸かす。シティーボーイのJにはシングルバーナーが珍しかったらしく、お湯が沸いていく様子を眺めながら早くも購入を検討し始め、下山後には散財を宣言している。

山頂で食べるラーメンには、特別な調理法があるわけではない。麺もスープも、地上で食べるものと同じである。それでも妙にうまい。ここまで自分の足で運んできたこと。冷えた空気のなかで湯気が立っていること。そして、遠くに富士山が見えていること。味覚とは、案外そういうものの総体なのだと思う。

山頂で辛ラーメンをすする
Summit Ramen二人で食べるラーメンは、静かで気楽だった。Jは辛ラーメンをすすりながら、次に買うべきバーナーについて考えている。
吉祥寺のいせやにて
Kichijōji — Iseya帰り道は吉祥寺へ。中古登山用品店「マウンガ」でジャケットを買い、名店「いせや」で焼き鳥をつつきながらビールを飲む。高尾山登山は大冒険ではない。しかし帰りの電車では、朝よりも少し遠くまで旅をしたような気分になっていた。

MT.TAKAO599m

↓

MT.ŌYAMA1,252m

第二弾は、神奈川県の大山。高尾山よりは少々険しいが、都心から日帰りできる身近な山である。入口は低く、しかし少しずつ高く。

03

CHAPTER 03 — MT.ŌYAMA 1,252M

第二弾
大山

Ōyama — Five of Us

当日は年に一度の大山登山マラソンと重なり、登山口へ向かう道は大渋滞。予定していたルートを諦め、ヤビツ峠側から登ることになった。山へ行くと、計画どおりにいかないことがある。今回は、山に登る前からその洗礼を受けた。

03 — 01どうにもまとまりのない、
五人のパーティー

今回のメンバーは、前回のJに加えて三人。僕を含めて五人のパーティーである。Jは相変わらず講釈を垂れながら歩き、登山の詳細をろくに聞かされないまま来た一人はコンビニ袋を提げている。別の一人は、取ってつけたように「いや、登山いいなあ」と繰り返す。その背後を歩きながら、僕は一眼で彼らの写真を撮る。五人五様、どうにもまとまりのないパーティーである。

五人で歩いていると、沈黙のあとに誰かが突然話し始める。Jが韓国の話を再開することもあれば、別の誰かが仕事の話を始めることもある。少し歩くと、また黙る。会話と沈黙が、登山のペースに合わせて入れ替わっていく。

そうしているうちに、次第にさっきまでいた街が遠くに見える。山登りのおもしろさは、景色の美しさだけではない。自分の足で歩いた距離が、そのまま風景として現れることにある。駅も道路も建物も小さくなり、代わりに空が広くなる。

山頂付近の残雪
Near the Summit山頂が近づくと雪が残っていた。低山といえど外界とは違う雰囲気が漂う。我がパーティーメンバーはシティーボーイが多いから、残雪の山に喜んでいる。
韓国式ラーメン鍋の辛ラーメン
Full Formation韓国式のラーメン用鍋に、辛ラーメン・卵・チャーシュー・ネギ。山頂のラーメンとしては、かなりの布陣である。完全勝利だ。周囲の他の登山客もこちらを見ている。どうみても我々の食事はうまそうだ。

03 — 02ラーメンの前で、
初めて統率が取れた

山頂につくと、もちろんラーメンを作った。高尾山で一度経験しているため、準備は少し手際よくなった。二人分から五人分へと人数は増えたが、役割分担も自然に決まっていく。水を用意する人、具材を出す人、鍋を見守る人。誰かが指示を出さなくても、ラーメンを食べるという目的に向かって、五人はこの日初めて統率の取れたパーティーになった。

より高い山へ、より長い道へと進む楽しみも、もちろんある。けれど、山に登ることの価値は、難しさだけでは決まらない。友人と歩き、疲れたところでラーメンを食べる。遠くの山や街を眺め、また自分たちの暮らす場所へ帰っていく。それも立派な登山である。

「山への入口は、
低くていい」── 本誌、結びにかえて

歩きやすい靴を履き、水と防寒着を持ち、天気のよい日に近くの山へ行く。目的は絶景でも、運動不足解消でも、ラーメンでもいい。

04 — 01山の時間を、
生活に取り戻す

登山から離れていた僕にとって、この二回は山へ戻るための足掛かりになった。いきなり大きなザックを背負ってアルプスへ行こうとすれば、準備の段階で嫌になっていたかもしれない。しかし、日帰りで低山へ行き、山頂でラーメンを食べるだけならできる。

小さな山に登ったことで、かえって遠くの山も思い出すようになった。あの稜線をもう一度歩きたい。久しぶりにテントを担いでみたい。以前は当たり前だった山の時間を、今の生活のなかにもう一度取り戻したい。

山道を歩けば、普段の肩書や役割から少し離れられる。歩く速さや疲れ方、休憩中の過ごし方に、その人らしさが見えてくる。大切なのは、街から少し外へ出て、自分の足で歩いてみることなのだと思う。

冬枯れの登山道

次はどの山で、
ラーメンを食べようか。

Colophon — 奥付

低山ハイク&ラーメン ルーティーン

写真・文 — Naoya Toyota
初出 — note(2026年9月)/本誌面はwebマガジン化プロトタイプ
本誌は、誰もがSNSのフォーマットに収まらず「一冊」を出版できる時代の実験として、AIとの協働で組版された。
行程 — 高尾山(599m)・大山(1,252m)
同行 — J氏(言語学者)、K氏(AIエンジニア)ほか

Recipe — 山頂ラーメンの布陣