ゴルナーグラート駅からマッターホルンを望む 特集

無難な写真は、
スマホで撮ればいい。

Feature No.018 — My Favorite Things

安くて、エモくて、
かわいいレンズ

単焦点レンズ TTArtisan 35mm f/1.4 C(35mm換算53mm)を愛用している。ミラーレス一眼 Fujifilm X-T30 と組み合わせて、主に旅行やアウトドアで2年ほど使ってきた。私がこのレンズを好きな理由を、「安い・エモい・かわいい」の3つの観点から述べる。

安い — 誰でも買えるF1.4

TTArtisan 35mm f/1.4 C は、非常に安価でありながらF1.4の明るさを誇るのが大きな特徴だ。富士フイルム純正で同等の焦点距離とF値を持つレンズは約8万円もする。もちろん純正レンズの方が高機能・高性能で価格に見合う価値はあるが、この値段ではカメラを趣味として楽しみたい者が気軽に入手できない。

純正同等¥80,000→TTARTISAN¥12,000

明るいレンズがたった1.2万円で手に入れば、誰もがカメラを楽しめる。お金がたまるまでの「消化試合」の時間がもったいない。最初から明るいレンズを使えれば撮影機会を逃さないし、写真の上達も早まると思う。

鴨川沿いでKindleを読む
f/1.4 — Kamogawa明るいレンズだから開放で撮ればとろとろボケる。鴨川沿いでKindle読書をするチルさを見出した時の写真。
山科の菜の花
f/1.4 — Yamashina前ボケで手前の菜の花を水彩画調にして桃源郷っぽさを演出した。京都の山科にて。

故障を心配せず、ガンガン使える

どんな環境でもすぐに撮影できるカメラが、私の理想のカメラだ。旅行先や、アウトドアシーンでもたくさん撮影したい。カメラはカメラケースに入れずバッグに無造作に詰め込んで、撮りたい瞬間にすぐ取り出せる状態にしたい。

安価なレンズならこのようなニーズを満たす。1.2万円ならたとえ壊してしまっても簡単に買い替えられる。だからレンズをかばうことなく、水分混入や傷を気にせずおもいっきり撮影できる。ちなみに、今までカメラケースを使わずバッグに放り込む運用で、荒天時や山・海で何度もこのレンズとカメラを使ってきたが全く壊れていない。軽量で落下させてもダメージが少ないのと、オートフォーカスを搭載していない単純な機構だから、壊れる部分が少ないのだと思う。

雪のケベックシティ
Snow — Québec City防水レンズではないけれど、安価だから雪による水分混入を気にせず撮影できた。
大雨のルツェルン
Rain — Lucerneレンズに雨が混入し、変な屈折が生まれてアーティスティックな写真に仕上がった。なお、一晩乾燥させたら復活した。
018 — Cheap, Emo, CuteSOLO Magazine

エモい — 撮影者の眼差しの追体験

このレンズはシャッターを押すだけで簡単に撮れる訳ではない。マニュアルフォーカスの単焦点レンズだから、撮影時にはフォーカスリングや絞りリングを操作したり、カメラと被写体の位置を自分の足で調節する必要がある。しかし、これらを私は長所と捉えている。

とある写真家が、写真の本質は撮影者の眼差しの追体験であると言っていて、私はこの発言に共感している。私は第三者に写真を見てもらうことを目的とせず、自分や、自分と行動をともにする友人のために写真を撮っている。良い写真を撮ることよりも、良い思い出を残すことが写真の目的になる。

マニュアルフォーカスの単焦点レンズだと特に、「エモい」写真を撮ることを矯正される。焦点も絞りも被写体との距離も、すべてマニュアルで操作するしかないから、撮られた写真には撮影者の意図が宿る。例えばピントを外した写真を撮ってしまった場合。オートフォーカスのレンズならば、それは単なる失敗写真として扱われる。しかし、マニュアルフォーカスならば、ピントを外した事実にも意味が宿る。

突然現れたシカ
Miyajimaぬん。突如シカが現れた。フォーカスが間に合わず中途半端な位置にピントが置かれたが、急にシカの襲撃をうけた様子が伝わって良い。
初めてのアメリカで最初に撮った写真
First Shot in Americaスリを警戒して胸の高さで撮影した一枚。フォーカスは曖昧でストラップが映り込んでいるが、だからこそチキっていた心情が思い起こされる。
「自分と世界の、距離感を表現できる」── 写真家・石川直樹。単焦点レンズはズームできないからこそ、野生動物との距離感、フレームに収まりきらない風景を客観的に表現できる。2020年、東京都立多摩図書館での講演より。

私自身の事例で考えてみると、春の東寺の写真は単焦点だから見いだせた構図だ。花見客でごった返していて身動きが取れず、単焦点だから桜にズームもできない。だから、左下の人々も含めて、私の眼の前の光景をそのまま撮影した。開放で撮影し、人物は前ボケさせることで情報量を整理した。コロナ後最初の春で花見客で賑わっていた背景や、桜を肉眼で見るよりもスマホカメラを通して見るのが現代風なのだという事実が載った、旅の記憶とリンクした写真になった。

春の東寺の花見客
f/1.6 — Tō-ji, Kyoto花より団子ならぬ、花よりインスタ映えな現代の花見風景。(かく言う私もその一人。)
蔣介石像と人々
Taipei蔣介石を中心に据えるのが普通の構図だが、焦点距離的に背景の漢字が入り切らない。だからレンズを左に向け、手前の人々を主題にしたことで、建国の父が人々を見守るような印象になった。普通の構図はスマホの広角で撮ればいい。

無難な写真はスマホで撮ればいい

ここまで述べてきた「ピントが外れてもエモい」という理論は、失敗写真を正当化する言い訳とも思われるかもしれない。それは、まあ、正論ではある。しかし、画質がきれいで過不足無い構図の普通の写真は、スマホのカメラでも撮影できるし、もはや自分で撮影せずともInstagramを漁れば無限に出てくる。

そんな時代にわざわざミラーレス一眼を携えて写真を撮るからには、自分が撮ったことによる付加価値を生みたい。マニュアル単焦点という少々融通が利かない機材で、撮影者の動きが介在する写真を撮る。そういうスタイルがあるのだと思う。TTArtisanのレンズは安価で明るいことだけに主眼が置かれていて、それ以外の性能は普通だ。例えば逆光耐性が低いため、光源の方向を撮影するとフレアやゴーストが発生する。そのようなクセも含めてスマホとは一味違う写真が撮れて面白い。つまり、エモいのだ。

逆光でもやがかかった写真
Flare逆光耐性が低く、もやがかかったような写真になる。そのおかげでソフトな朝の光につつまれた優しい雰囲気になった。
光芒とゴースト
Ghost光芒もゴーストもマシマシでちょっとやり過ぎな気もするが、スマホでは撮れない印象的な写真に仕上がった。
018 — Cheap, Emo, CuteSOLO Magazine

かわいいSilver & Small

シルバーボディのカメラがかわいくて好きで、愛用しているミラーレス一眼X-T30もシルバーの筐体のものを選んだ。シルバーのカメラにはシルバーのレンズを合わせたいところだが、純正・サードパーティどちらも黒色のレンズが主流でシルバーは少ない。

だが、TTArtisan 35mm f/1.4 C は安価なのにシルバーカラーが用意されている。シルバーのレンズとシルバーのX-T30を組み合わせると、クラシカルな見た目のかわいいカメラに仕上がる。

シルバーのレンズとX-T30
Silver × Silverカメラもレンズもシルバーで揃えると、クラシカルでかわいい。

周囲の人を威圧しない

クラシカルなカメラを使う利点として、旅行先でカメラを携えて街を歩いていると、旅情が増してテンションが上がるという点がある。もう少し実利的な利点としては、クラシカルでかわいいカメラなら周囲の人を威圧しないということが挙げられる。いかにもプロといった雰囲気のでかい一眼レフを携えていると目立ってしまい、周囲の人に威圧感を与えてしまう。旅行先で出会った人や、一緒に行動する友人を撮ろうとした場合には、でかいカメラだと表情がこわばってしまう。しかし、クラシカルでプロ感が無いカメラなら周囲の人を威圧しないし、被写体も自然な表情でいられる。

フォトグラファーの内田ユキオ氏はRICOH GRのイベントで、笑顔の子どもたちの写真を示しながら「これはコンパクトなGRだから撮れた笑顔です」と語っていた。私が使っているカメラも同様のことが言えるだろう。

ニューヨークのバー
Bar — New Yorkこのカメラならバーの雰囲気を壊さずに撮影できる。
ソウルのカフェ
Café — Seoulコンパクトでクラシカルな見た目だから、カフェで一眼を取り出しても「業者感」が出ないのがいい。昌慶宮の見えるカフェにて。

サイズもかわいい

TTArtisan 35mm f/1.4 C + X-T30 の組み合わせは重量が軽く、2つ合わせて約560g。ストラップを含めても600g台前半だ。サイズもコンデジより一回り大きい程度だから、片手でも操作可能だし、小さいバッグにも収まる。この機動性のお陰で、旅行・街歩き・登山どこへでも持っていける。

シルバーのカメラたち
My Silver Cameras私が愛用してきたシルバーのカメラたち。左上: D-LUX 7、左下: X20、右: X-T30。この見た目のカメラに全幅の信頼をおいている。

さあ、次はカメラを持って
どこへ行こうか。

Colophon — 奥付 安くて、エモくて、かわいいレンズ TTArtisan 35mm f/1.4 C(+ Fujifilm X-T30)
写真・文 Naoya Toyota / 初出 note(2025年1月)、本ページはwebマガジン版
撮影地 京都・ツェルマット・ルツェルン・ケベック・ニューヨーク・モントリオール・ソウル・台北ほか
本誌は、誰もがSNSのフォーマットに収まらず「一冊」を出版できる時代の実験として、AIとの協働で組まれている。
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